ポプリ
 人の気配には気をつけていたはずだったが……尻餅をついた花龍は、少しだけ涙目になりながら顔を上げた。

 ぶつかったと思われる人物は、浅いダンボール箱を持った灰色の髪の少年だった。感情の見えないぼんやりとした瞳で花龍を見下ろしている。

「あ……ご、ごめんなさい……」

 死んだ魚のような目で見下ろされて、花龍は肩を竦めて謝った。高等部の制服を着たこの少年、外見は普通の人間に見えるのだが、人の気配がしない。その上謝っても反応がない。それが少しだけ怖かった。

「花龍!」

 そこにシオンが駆けてきた。

 花龍と同じく、人の気配とは違う空気を纏った少年を警戒し、花龍を背に庇うように立つ。

「なんだお前!」

 深海色の瞳を鋭くして睨みつけても、やはり反応がない。それどころか、動く気配もない。

 なんだろうこの人。

 疑問に思っていると、花龍が地面についた手の近くに、小さな丸いものが転がっていることに気づいた。

「……球根」

 掌に乗るサイズの茶色いそれは、花の球根のようだった。見れば、灰色の髪の少年が持つ箱の中に同じ球根がたくさん入っている。ぶつかった拍子に落ちたのだろうか。

 花龍は立ち上がり、自分を庇うように立つシオンの横から、少年に球根を差し出した。

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