ポプリ
 本日の追いかけっこは、三人。

「ふぇえええーん」

 いつものようにシオンから逃げる花龍。

「まってぇええええー」

 いつものように花龍を追いかけるシオン。

 そして。

「お前たち、廊下は走るなと、何度言ったら分かるのだああー!」

 腰に差した刀、『月蝕』を抜く勢いで追いかけてくる、黒髪を元結で結んだ金色の目の少年。

 彼は中等部三年、風紀委員の音無刹那。

 以前は立ち止まったままで「廊下は走るな」と注意していたのだが、刹那や他の生徒会役員たちの度重なる注意も聞かず、いつまでも追いかけっこを続ける二人に業を煮やし、そして彼自身も最近機嫌が悪いこともあり、今日は凄まじい形相で花龍とシオンの背中を追っていた。

「だいじょーぶだよぉ。俺たち、走ってないもん」

 刹那を振り返り、のたまうシオン。

「そのスピードでは歩くのも走るのも同じだっ!」

「……だめなの?」

 刹那の声が届いて、花龍が振り返る。

 しかし前方への注意が散漫になったことで、花龍は廊下の曲がり角から飛び出してきた巨漢に弾き飛ばされてしまった。小さな花龍は後ろに一回転してしまう。

「花龍、大丈夫かっ?」

 シオンが慌てて花龍に駆け寄る。

「う、うん」

 これでも龍娘流中国拳法開祖の孫、そして名誉師範代の娘。勢い良く転がったように見えたが、特に問題はないようだ。

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