ポプリ
「えっと、ごめんなさい……」

 座り込んだまま顔を上げ、ぶつかった人物に謝る。しかしそのぶつかった人物というのが、天神学園になくてはならない存在、噛ませ犬のヤンキーたちであった。ぶつかったヤンキーAの後ろから、B、C、D……と、強面の男たちが十人ほど現れて花龍とシオンを囲んだ。

「ってーな、何しやがんだこのチビがぁ!」

「俺たちの道を塞ぐんじゃねぇよ!」

「邪魔だどけやゴラァッ!」

 ヤンキーたちが吼える。

 ぐるりと周りを取り囲まれた上に大きな声で怒鳴られて、花龍は少しだけ身を竦めた。滑舌の悪い、あまり聞き取れないようなガラの悪い口調で怒鳴られることに慣れていなかった。

 萎縮する花龍を見て、シオンは腰のダガー、『プティ・ランスロット』に手をかけた。

 しかし躊躇する。

 どうすればいいのか迷う。

 このヤンキーたち。

 弱過ぎて相手にならない。物凄く見掛け倒しだ。

 しかしだからこそ問題なのだ。

 彼らは弱過ぎるからこそ、シオンや花龍の能力がどれほどかも知らずに襲い掛かってくる。それに対してやり返したら怪我をさせてしまう。シオンはまだ手加減がうまく出来なかった。彼が剣を抜くには、最低でも花龍ほどには“デキる”者でなければならない。

 勇者が弱者を傷つけるなんて、あってはならないことだ。

 こんなとき、父ならどうするだろうか。

 考えようとするも、そんな時間は許されないようだ。

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