ポプリ
 うさぎがかわいいので溶かすのがもったいないと、マシュマロは皿に乗せたままにし、ココアだけを口にする。

 口の中に広がる甘さに顔を綻ばせたものの、すぐに花龍の表情は曇った。

「でも、今度からどうやってシオンから逃げたらいいかなぁ?」

「……花龍は、どうしてシオンから逃げたいの?」

「うーんと……」

 こくこくとココアを飲みながら考える花龍。

『ちゅーしよう』とか、『ぎゅってしたい』とか言いながら追いかけてくるシオン。

 そういうのは『恋人同士』がするものであって、父上のお嫁さんになる(と思い込んでいる)花龍に、シオンとちゅーをするつもりはない。

 そんな破廉恥さも嫌ではあるのだが。

「うーんと……」

 考えてはみるものの、なかなか答えに行き着かない。

 小岩井冬樹と花壇にチューリップを植えたことも、お揃いの綾小路を貰ったことも、花龍にとっては楽しい思い出だ。そう、彼のことは別に嫌いではないのだ。

「シオンのことは、嫌いではないんだよね……?」

 優しい顔で問いかけてくるリィに、花龍はこくりと頷く。

「嫌いじゃ、ない。……でも……なんだか。……こわい……」

 シオンの笑顔も、今日みたいに自分を庇おうとしてくれるところも、嫌いではない。たぶん、見ているだけならばほっとしている。安心出来る。

 でも。

「よく、わからないけど……近づいてくると、こわい。私が……いなくなりそう、なの……」

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