ポプリ
「うん、めぇええええー!」

 天神学園クリスマステロ会場の体育館に、可憐な少女の大声が響いた。

「ピザうんめぇ! ラザニアうんめぇ! 七面鳥うんめぇ! あっ、兄ちゃん! 兄ちゃんの仙豆くなんしょ!」

 肩までの碧色の髪を弾ませ、会場のフードコーナーで一人大食い大会を開催しているのは、天神学園卒業生シルヴィ=グリフィノー。兄のシンが夫婦で来るというので、一緒にやってきていた。

 故郷のミルトゥワにて、世界の秩序を守る『世界平和維持機関ラルカンシェル』の隊員として、忙しい日々を過ごしているシルヴィ。

 彼女は甥であるシオンからクリスマステロの話を聞き、この会に参加することを指折り楽しみにしていた。

 懐かしい面々に逢えること、大量のご馳走が無料で配られていること、そしてカップル限定で配られているキーホルダーを目当てに乗り込んできたシルヴィは、彼女の保護者代わりとなっている魔族の青年、クードを伴っていた。

 黒のロングコートに黒い髪の、黒尽くめで無表情で二メートル近い身長のある彼は、初等部の小さい子たちからすれば怖いお兄さんに見えただろう。

 そんな彼に、成長して妖精のごとき可憐な少女と化したシルヴィが手を伸ばす。

「クー! あんだ(貴方)も食わんしょ!」

 と、七面鳥を丸々一匹、口の中に突っ込まれた。

 クールなお兄さんの顔面が七面鳥と化す。なかなかにシュールな光景だ。

「なっ? 地球の食いモンはうめぇべ?」

 にこにことシルヴィに訊ねられて、クードはもぐもぐと口を動かす。

「…………ああ」

 顔いっぱいを七面鳥にしたまま、クードは低い声で頷いた。

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