ポプリ
「そういやさ、琴音ちゃん、高校から天神に通うんだろ?」

「ああ、そのつもりだよ」

「あそこ音楽科なかったよな?」

「ないね。でも良い先生がいるんだ。僕もお世話になった。父さんも」

「はぁ? ……人間か、それは?」

「ふふ、どうだろうね」

 光の粒のようなピアノの音に、和音の笑い声が混じる。

「……あそこでの三年間は、僕にとってかけがえのないものだったから……琴音や玲音にも見せてあげたいんだ。あの学校に流れる“音”を」

「ふうん」

 演奏が終わり、響也は少しの間、天気の良い空を眺めていた。そうして、ぽつりと呟く。

「響(ひびき)も天神に上げてみようかなぁ」

「響くんを?」

「なんか悩んでるみたいだからさ、違う環境もいいかと思って」

「ああ……」

 和音は自分の中学時代を思い出し、少し遠い目をした。

「確かに、進むべき道に迷っているときに、思い切って環境を変えてみるのはいいかもしれないね。うちの玲音も、少し悩んでいるようだ」

「玲音が? いっつも自信満々で悩みなんてなさそうなのになぁ、あいつ」

「……たぶん、ピアノの世界だけでは狭過ぎるんだ、彼には」

「ほう?」

「だからこそ、玲音にも天神の空気に触れてみてもらいたいね。多分、進むべき道が見えてくると思う」

「父親としての勘かね?」

「そんなところだよ」

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