雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 萌果は小学生の頃から、その可愛さで目立つ存在だった。男子から告白された事も、一度や二度ではない。

 どんなに顔が良くてスポーツ万能で、人気者の男子でも萌果を振り向かせる事は出来なかった。そのせいで、小学生の萌香はあまり友達がいなかった。自分が可愛いと思って調子に乗ってる、と女子の反感を買ってしまったのだ。

 当の萌果にとっては、相応しい男子がいないのだから仕方のない事。付き合う第一条件は『お兄ちゃんよりも強い人』だった。小学生男子が、空手で名を馳せる律樹に敵うはずもない。

 中学生になり、ますます可愛らしくなった萌果は、次々に告白される。やはり『お兄ちゃん以上の人』には出逢えるはずもなく、女子からはまた妬まれた。

『どうして、私はお兄ちゃんの妹なの?』 両親にそう言いたくなる事すらあった。まかり間違って、兄とは血が繋がっていないかも知れないと、母子手帳をこっそり見てみた事もあった。

 一番近くにいられるけれど、一番遠い。女としての自分と兄は。それを思い知らされた時、萌果は自分の人生を呪った。兄とは決して結ばれる事はないのだ。

 しかし、高校生になった萌果は全てを受け入れた。と言うより、開き直ったのかも知れない。

 兄の一番近くにいるのは自分だ。一生、兄のそばで妹として愛され続ければいい。

 だから、萌果にとって伊万里を守るのは当然の事だった。弱い者は守らなければいけないという兄の言葉が、常に萌果を支配していた。
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