雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 律樹はすっと手を伸ばすと、痴漢の手首を握った。その手を挙げて「痴漢だ!」と声を出す事も出来たのだが、そんな律樹を止めたのが那子だった。伸ばされた律樹の腕に手を置き、那子は俯いたまま首を小さく横に振っている。

 結局、那子の意向で、その手を離した律樹だったが、曲がった事が嫌いな性格もあって、泣き寝入りする那子を理解出来ずにいた。

 車内に次の駅名を告げるアナウンスが流れる。律樹は駅に着いたタイミングで那子の腕を引くと、その電車を一緒に降りた。
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