雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「大丈夫か?」


 動揺している様子の那子に、ぶっきら棒な物言いながら律樹は訊ね、那子が小さく頷く。それに呆れた様な溜め息を吐いて、律樹は那子を見た。


「俺がいなかったら、あのままずっと黙ってるつもりだったのか? ああいう奴は晒し者にしないと、懲りずにまたやるぞ?」


「……わかってる。けどっ。」


 俯いていた那子が、反論とばかりに、そこで顔をあげた。


「今まで一度も痴漢に遭った事なんかなくて。もし遭ったら絶対声出してやるって思ってたけど……いざ遭ってみたら、声出せなくて……」


 やけに弱々しい那子を目の当たりにして、律樹の中で「桜川那子」という人物像が、だんだんぼやけていく気がした。
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