雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
溜め息の放課後は綺麗な茜色だった
 雨はより一層強くなっていた。バスの後部座席に腰を下ろした千咲希は、窓に打ち付ける雨粒の滴を見ながら、さっきまでの事を思い出していた。

 自分をかばって、びしょ濡れになってしまった匡の事を――。


『濡れなかったか?』


『私は、大丈夫。たっくんこそ……』


『俺、走って帰るわ。こんな傘じゃ、二人とも濡れるだけだし。じゃあな、気を付けて帰れよ?』


『あ、待って!』


 匡は、雨の中を走り去って行った。残された千咲希は呆然とその場に立ち尽くす。

 抱き締められたかと思った一瞬の出来事に、まだ収まらない胸の高鳴り。

 いつの間にか、自分より小さかった『たっくん』は、見上げるほど大きな逞しい男の子になっていた。

 ――こんな雨の中を傘もささずに……たっくんこそ、風邪引いちゃうよ?

 そんな事を思いながら、千咲希はトボトボとバス停までの道程を歩いたのだった。
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