雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「そんなの、わかってるよ」


 口では言ってみたものの、昼間の出来事を思い出して、胸の中の小さな波紋が段々と大きくなっていく。


「それで? たっくんはカッコ良くなってた?」


 からかうような母親の言葉に、千咲希は思わずムキになる。


「たっくんは、たっくんだよ。傘持ってなかったから、バス停まで入れてあげようと思ったのに、走って帰っちゃってさ」


「照れ臭かったのよ。年頃の男の子だもの」


 そうかも知れないけど……。あの雨の中、匡は大丈夫だっただろうか。風邪など引いていないだろうか。今更ながら気になってしまう。


「八尾さん、どのへんに住んでるのかしら? 千咲希、聞いてないの?」


「いろいろ話したかったけど、走って帰っちゃって。また学校で会えたら聞いとく」


「お願いね」


 両親は仕事の話を始めたので、千咲希は食べる事に集中する。


 ――本当に、いろんな事、もっと話したかった……。

 そんな気持ちを抑えるように、千咲希はロールキャベツを口一杯に頬張った。
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