雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 千咲希は楽器と譜面と譜面台を持って、屋上の扉を開いた。

 今日は合奏の前に、一時間の個人練習というスケジュール。その個人練習の場は自由になっている為、千咲希は屋上で吹く事にした。

 いつも屋上にはだいたい先客がいるのだが、今日は千咲希が一番乗りだ。一番奥のグランド側に陣取ると、そこに譜面台を立てた。

 ロングトーン練習を何度か繰り返し、楽器が温まってきたところで、コンクール課題曲の譜面を開く。

 ――カキーン。

 グラウンドから聞こえてきた金属音に、千咲希はそっとグラウンドを覗いた。見れば野球部がノックをしている。思わず匡を探したけれど、それらしき姿は見当たらない。

 千咲希が乗り出す様にグラウンドを覗くと、その真下で投球練習をしている匡の姿があった。

 野球の事なんてよく知らない千咲希だけれど、キャッチャーのミットに吸い込まれる様な匡のストレートに息を呑む。その驚きは、無意識の小さな溜め息になった。

 ――たっくん頑張れ! 私も頑張る!

 千咲希は心で呟くと、課題曲のマーチを奏で始めた。
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