雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「すいません」


 か細い声で言って顔を上げると、相手が『あっ』と伊万里を指差す。伊万里は怒られるのかと怯えて後ずさった。


「もしかして……」


 口を開いた男子はエビ高の制服を着ている。紺色のネクタイという事は二年生だ。伊万里はどうしようと困り果てて、俯いた。


「Fateのライブ来てなかった? 五月の」


「Fate?」


 男子生徒の言葉に驚いて、伊万里史上最高の音量で声が出た。


「やっぱり? 覚えてないかな、ライブ終わりに……」


 伊万里の脳裏に、その時の出来事が鮮明によみがえる。コンタクトを一緒に探してくれた……あの人!?


「あ、それ、ニューアルバム? 俺も予約してて取りに来たんだ!」


 この人は、本物のFateファンだ! と確信した伊万里は、嬉しさの余り言葉が出ずにいた。
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