雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 始まった試合は一進一退、投手戦となった。うだるような暑さの中で、吹奏楽部は汗だくになり演奏を繰り返す。容赦なく照りつける太陽に、千咲希は倒れそうになりながら必死にサックスを吹いた。

 九回裏、この回をエビ高が抑えれば、延長戦突入となる。フォアボールで最初の打者が塁に出たところで、監督がベンチを出た。ピッチャー交代のようだ。


「あっ」


 千咲希は思わず声に出していた。マウンドに向かって駆けてきたのは、匡だった。


「マジかよ? あいつ一年だろ?」


 大丈夫か、と周りの生徒達が騒ぎ出す。千咲希は額から流れる汗を拭う事もせず、匡を見つめる。

 たっくん、頑張って! そう心の中で叫んで、千咲希はサックスを握り締めた。
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