雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 スタンドを後にする生徒達の中で、千咲希はそこから動く事が出来なかった。


「千咲希、帰らないの?」


「うん、先行ってて」


 吹奏楽部の友人にそう言って、一人スタンドに佇む。一斉に球場を後にする人々を見送っていると、生ぬるい風が千咲希の髪を揺らした。

 匡は今、どんな気持ちでいるんだろう?

 そう思うと、胸が締め付けられるようだった。

 球場を出た千咲希は、出口の近くでしゃがみ込んでいる匡を見つけ、足を止める。

 ゆっくり近付いていくと、気配に気付いた匡が顔を上げた。


「たっくん、お疲れ様」 


 匡は無言で、苦虫を噛み潰したような顔を向ける。千咲希は匡に倣うように、その目の前にしゃがみ込んだ。
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