雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 祭りの後の喧騒を避けて、律樹と那子は駅に向かう人波を抜け出した。


「どこ行くの?」


「うるさくないとこ」


 那子の問い掛けにそれだけ答えると、律樹は住宅街の中を歩いていく。


「足、大丈夫か?」


「えっ?」


「痛くない?」


「……平気」


 律樹が自分の事を気にかけてくれている。そう思うと嬉しさと恥ずかしさが入り混じって、那子の声は消え入るように小さくなった。

 そんな二人の後ろ姿を、同じクラスの女子が見つめていた。


「今の、今宮くんと桜川さん?」


「だよね?」


「あの二人、そんな仲良かったっけ?」


「LINEしよ! スクープだよ」


 言葉少なにゆっくりと歩く律樹と那子には、そんな声は届いていなかった。
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