雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 そもそも、夏成実が功にぶつかってコーヒーをこぼしたりしなければ……。この痴漢女が悪いのに、なんで俺はコイツと一緒に映画観てるんだ?

 隣にいる夏成実の横顔をそっと盗み見ると、真剣に画面に観入っている様子だ。まだ予告編すら始まっていないと言うのに。

 功は、夏成実のくるんと上向きにカールした睫毛をじっと見つめる。変な女………。でも、よく見ると顔は可愛い方かも知れない。黙ってれば、マシだ。


「ん?」


 視線に気付いた夏成実が、功の方を向いた。


「別に」


 夏成実は首を傾げて、またスクリーンに釘付けになる。功も考えるのをやめて、前を向いた。
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