雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 ガイドさんに連れられ、並んで歩き出すクラス別の列の中、千咲希の隣でやけにはしゃぐ穂香がいた。口は挟まなかったものの、その場にいた千咲希も、穂香と新太のやりとりを目にしていた。明るく振る舞う穂香が心配になって、千咲希は遠慮がちに触れてみた。


「穂香?」


「ん?」


「大丈夫?」


「全然大丈夫」


 穂香は白い歯を覗かせ、ダブルピースをしながらニカッと笑う。千咲希の経験上、穂香の「全然大丈夫」は、真逆な事の方が多い。それでも、それ以上の深追いは出来ない千咲希だった。

 しばらく歩いて、いくつもの門をくぐると、琉球王国最大の木造建造物である正殿が現れた。中国と日本の築城文化を融合したその建物に、千咲希は目を見張る。ふと隣を見ると、その景色に目を奪われている穂香がいて、ほんの少し安心する千咲希だった。
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