雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「萌果、毎日来なくていいって」


 黒い帯を締め直しながら、律樹がやって来た。伊万里は俯きながら会釈する。


「友達も付き合わせて迷惑だろ。ごめんね」


 律樹に言われて、伊万里はふるふると首を横に振った。
 
 ――まずい、萌果にやきもち焼かれる!

 そう思うと怖くて顔を上げられずにいた。


「そんな事ない。萌果と伊万里は仲良しだもん。ねっ、お兄ちゃん、一緒に帰ろ?」


「あー、悪い。今日ちょっと寄り道してくから」


「寄り道?」


「うん、悠李(ゆうり)のバイトしてるファミレス。いちごフェアやってるらしくて」


 ――い、いちご? 

 律樹の口からそんな言葉が出るとは、意外だった伊万里は目を見開く。


「いちごフェア? 萌果も行く! ね、伊万里も行こうよ」

  
 振り返った萌果が、伊万里の手を握ってくる。


「萌果、彼女も困ってるじゃないか」


「そんな事ないよね? 伊万里もいちご好きだよね?」


 確かに、いちごは嫌いではない。伊万里はそこについては頷いた。


「じゃ、お兄ちゃん! 萌果達外で待ってるから。行こっ」


 ――あれ!? 萌果達って……私も行く事になってるの?

 伊万里は何も言えず、萌果に引っ張られていった。
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