雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「たっくん」


 懐かしすぎる呼び名に、匡は急いで振り向くと、千咲希の姿を見てちょっぴり怪訝な顔をする。


「私、『ちー』だよ? 覚えてない?」


 匡はそれがすぐに千咲希だとわかったのだが、全く予期していなかった十年ぶりの再会に、言葉がうまく出て来ない。


「なあんだ……たっくんは忘れちゃってるのかぁ」


「もうガキじゃねぇんだから、その呼び方やめろ」


 匡は不愛想な顔のままそれだけ言うと、千咲希に背を向けて歩いて行ってしまった。


「すっかり男になっちゃって……しかもちゃんと覚えてるじゃん」


 実弟がいる千咲希は、姉の様な気持ちで、成長した匡の背中に笑みを浮かべた。
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