隣に住むのは『ピー…』な上司
「そんなふうに優しく呼ばれたら私は一人で生きていけなくなります……」



高校の頃から一人きりだった。

「おはよう」や「バイバイ」を言える相手はいたけれど、「ただいま」も「おかえりなさい」も言う人がいなかった。


寂しいと思わずに生きてきた。

でも、今はそれが寂しかったんだと知った。



「一人で生きようなんてするな。これからは俺が一緒にいてやる」


課長の言葉がウソなのか本気なのか、それすらも考えないうちからカギのロックを外していました。



「……ど、どうぞ」


「お邪魔します」


課長の全身がサッシの隙間を抜けて部屋に入ってきて……



「おかえりなさい……」


あの日、ドキドキして言えなかった言葉を言いました。



「ただいま。藍」


課長の声に胸を震わせて、そ…と手を伸ばしたら。


広げられた腕の中に入れられた。

優しく抱いていた腕の力が一瞬きゅっと込められて。



「怖くないか？」


心配そうに尋ねられたから


「ううん。嬉しいです」


そう心から答えた。そしたら……



「可愛い女だな」


そう言われてぎゅうっと力を込められました。




「真史さん……」


胸の中で小さく囁いた名前。

課長の耳には届いてなかったけれど、機会があったらまた呼んでみようと思う。




（とにかく今は……）



幸せなカタチを自分なりに見つけた。

この幸福感に包まれて、ゆっくりと呼吸がしたい。

『ピーチ』と優しく小鳥を呼ぶ上司と、隣り合わせで暮らしていきながらーーー。



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