隣に住むのは『ピー…』な上司
反対方向にあるドアを指差された。
ビクビクと落ち着きなく向きを変える私に、課長はそうだ…と声を発した。


「買い物袋とバッグは玄関に置いてあるから」


話しかけられて足がもつれる。



「白鳥くん?」


それに気づいた課長が私に寄って来ようとした。



「来ないで」


ぶるぶると震えているのが自分でもわかった。

さっきのことと今のベッドが記憶を蘇らせてしまった。


ぎゅう…っと体を抱きしめた。

そうしていないと怖くて叫び出しそうだった。



「大丈夫か?顔が青いぞ」


膝を曲げてしゃがみ込む課長の顔が視界に入る。


ぎゅっと目を瞑って頷いた。
でも、足も体も動かせない。

呼吸が速くて苦しい。
なんだか目も眩んできてしまう。



「白鳥くん…?」


様子がおかしいのに気づいた課長は、少しだけこっちに近づいた。



「熱でもあるのか?」


震えているのに気づいたらしい。


ぶんぶん…と頭を横に振った。


「じゃあ寒気でもするか?」


(いいえ。そうじゃないけど……)



怖くて怖くて堪らない。
あの日の恐怖がこんな形で襲ってくるなんて思わなかった。


「白鳥……?」


業を煮やしたらしい課長がもっと近づく。




「ダメッ!イヤッ!!」


ドンと突き飛ばしてしまった。

唖然とする課長と目が合い、ボロボロと涙が溢れだした。


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