隣に住むのは『ピー…』な上司
「ひっ、ひっ、はっ…はっ…」


過呼吸が起きた。

吸い込んでも吸い込んでも息が奥へ流れていかない。


(苦しっ……)


パニックを起こしている私の耳に課長の声が響いた。



「これで呼吸しろ!」


紙の袋のようなモノを投げつけられた。
さっき小脇に抱えていたペットショップのものと同じだ。


「口に当てて息を吸い込め。ゆっくり吸い込んで、できるだけ長く吐くんだ」


指示されるがまま袋を口に押し当てた。

浅くしか入ってこない息を吸い込んでは、できるだけ吐こうと努力する。



「そうだ。ゆっくりでいい」


まるでドクターのような感じに聞こえてくる。

泣きながら吸い込んでいた息は、ゆっくりと肺に流れ始めた。



「もう少し呼吸しとけ。動悸が治ったら止めていいから」



的確な指示のおかげでパニックは次第に治った。

15分も続いたのは初めてのことだ。



「……落ち着いてきたか?」


グラスに入った水を手渡された。



「…なんとか……」


受け取りながら答え、すぐに飲み込む。



ゴク、ゴク、…と水が喉に流れ込んでいく。



「落ち着いて飲めよ。慌てるな」


課長の顔がホッとしたものに変わっている。




「すみませんでした……」


グラスを空にして謝った。

課長は受け流しもせず、一体どうしたのかと聞いてきた。


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