隣に住むのは『ピー…』な上司
「いきなり倒れたり過呼吸を起こしたりして、マトモじゃないぞ」


喘息でも持っているのか?と聞く。


「いいえ」


そんなものを患ったこともない。


「だったら何故」


体調も悪くなければ持病すらもない。

あるとするならばーーー



「怖い思いが蘇ってしまって……」



観念して話し始めた。
後から考えれば話さなくても良かったはずなのに。



嘘をつくのが苦手な私の話を聞いて、課長は渋い表情を見せました。

さっき現れた従兄弟に犯されそうになった…と呟いたところで……



「もういい。話すな」


聞く気がしなかった訳じゃなさそうでした。

私の呼吸が乱れ始めて、これ以上は無理だと判断したみたいだった。



「とにかくもう忘れろ。あの男は家に帰ったから」


課長の声が聞こえてホッとした。

泰明が家に帰ったという事実を証明してもらえた。



「部屋の前まで送るよ」


立ち上がる課長に合わせて膝をついた。

曲げていた関節を伸ばそうとしたら、そっ…と二の腕を握られた。


「支えといてやるから」


私の表情を確かめて言う。



「すみません」


短く答えて足を伸ばした。


フラフラしながら歩き始めると、鳥かごの中にいた小鳥が鳴いた。


『ピロロ!ピロロロ!』


ガサガサと暴れ始める。


「気にするな。俺がどこかへ行くのが気になるだけだ」


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