隣に住むのは『ピー…』な上司
「ピーチ」


課長の声がする。
『ピューピュー』と口笛を吹いてあげてる。


「よしよし」


まるで子供に話しかけているみたいな感じ。

ベランダに続く窓を開けているからだろうか。

声が全部まる聞こえです。



（ふふっ）


心なしか楽しくなってきた。
オフィスの皆が知らない課長の生活の一場面を見ているような気がして。



「くすっ」


いけない、いけない。
つい笑いが溢れる。



「白鳥くん」


ギクッとする。振り向いてみると課長が防火板のすぐ側に立っていました。


「お、おはようございます。課長」


持っていた洗濯物を手放して挨拶をした。


「おはよう。気分はもういいのか？」


気にしてくれていたようです。


「大丈夫です。昨日は申し訳ありませんでした」


忘れかけていたことを思い出した。
ほんの少しだけ嫌な気分に戻ってしまう。


「特別なことは何もしてない。困っている時はお互い様だろう」


「はぁ…」


あの課長が言うセリフ？
『クール上司』で通している人がお互い様とか言った？


「俺も何で迷惑かけるかわからない。その時はよろしく頼む」


「は、はい！困った時は言ってきて下さい！」


つい気安く返事をしてしまった。

課長は「じゃ」と短く言うと、さっさと部屋へ戻っていく。




「驚いた。あの課長に頼まれ事をされるなんて……」


二度目の驚き。

それがまさか現実になるなんて、何も思わずにいた。


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