隣に住むのは『ピー…』な上司
顔なんか見たくもない。

今更何の言い訳をしようと言うんだ。


「二度と前に現れないで!あんたなんか、従兄弟でも何でもないからっ!」


憧れてた私がバカだった。

思春期の性を知らずに男の部屋へ入り込んだのもバカだったと思う。


恥ずかしい思いをさせてしまったと反省した時期もあった。

でも、それも全て恐怖心が打ち消してしまった。



後にも先にも「男は怖いもんだ」と植え付けられた。

過去のトラウマのせいで、私はこれからもきっと一人きりだ。



「藍……」



呼び捨てになんかするな。
あんたなんかに名前で呼ばれたくない……!




ヒューという音が喉の奥から始まった。

ドキドキと張り裂けそうな程に心臓が動きだしている。


呼吸が乱れ始める。

このままじゃ、また過呼吸に陥る。



(ヤバい。息ができない……)


吸っても吸っても肺へと流れていかない。

浅い呼吸は心音を跳ね上げ、立っているのでさえもやっとの様な状況になった。


身体中が震え始める。

この男の前で、卒倒するのだけはイヤだ。




(イヤだ……誰か助けて……!)


声が出てこない。
ふらつき始めた私に気づき、泰明の足が忍び寄ってきた。


「藍ちゃん?」


声色が心配そうにも聞こえる。
でも、騙されたくないーー。



「寄らないで……」


トラウマを消したい。
何も知らなかった頃に戻りたい。


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