不思議な彼女と吃音な俺
 無情にも時間は過ぎていき、別れの時は着実に近づいていた。あれだけ高いところにいた太陽も、今では傾き始めている。

「あっ、そろそろ帰らなきゃ・・・」

彼女は名残惜しそうに呟く。その言葉を聞いた瞬間、俺の心を何かが締めつけた。苦しい。

「じゃあ、最初のこ、こ、公園まで一緒に行こう」

振り絞るように、俺は言った。2人で元来た道を歩く。公園が近づくにつれ、夢の世界から現実世界へと無理やり引き戻されるような感覚に襲われた。

 公園まで戻ってくると、2人で最初のベンチに座った。

「ユウジくん、手汗ヤバすぎ」

彼女はまた俺を見て笑う。でも、どこか悲しそうにも見えた。俺は何も言うことができず、ただ、黙っていた。

「今日は付き合ってくれてありがとね。楽しかったよ」

「お、俺も、た、楽しかった」

「ほんと?よかった!」

その時、彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。そんな彼女を見て、俺も自然と笑顔になれた。

「ねぇ、ユウジくん。私のこと、好き?」

「お、お、お、俺は―」

俺の中ですでに答えは出ていた。そして、俺がその想いを伝えようとした時だった―。

「お兄ちゃん、誰とお話ししてるの?」

不意に話しかけられ、驚いて声のした方を見ると、そこには小学低学年ぐらいの男の子が不思議そうな目で俺を見ていた。

「今ね、こ、このお姉ちゃんと―」

彼女のいた方を見ると、そこにはすでに彼女の姿はなかった。まるで最初から存在していなかったかのように。

「お姉ちゃん?お兄ちゃんずっと1人で座ってたよ。ぼく、見てたもん」

一体どういうことなんだ。俺は本当に夢でも見ていたのか。俺は混乱していた。そして、俺は彼女を探した。でも、結局見つからなかった。彼女は風のように現れ、そして、風のように消えてしまった。彼女の笑顔だけが残り香となり、脳裏にずっと、いつまでも染みついて離れなかった。

「好きだよ」

彼女の温もりを握りしめながら、俺は誰にも聞こえないような声で空に向かって呟いた。その時、彼女がまた笑ったような、そんな気がした。
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