オトシモノ



正直、迷惑でしかない



この状況で鞄を取りにいななければならないのは結構、過酷だ



席が近いのでなおさら



だが、バイトの時間は押している



このままその光景を眺めていても仕方ないと思った



僕はその状況をスルーするつもりで鞄のほうへと近づく



彼女だって触れてほしくはないだろう



そろそろと机に近づき素早く鞄を手に取った



そのまま教室を出ていこうとしたが、先に沈黙を破ったのは意外にも彼女だった




『私...オトシモノをしたの...。』




「......あぁ...そうなんだ。」




それは僕の知ったことじゃない



というか落とし物したぐらいで泣いていたのかと思うと、どんな神経をしてるんだと呆れるしかなかった




バイトの時間はどんどんと迫っている



次第に焦りが苛立ちへと変わっていく



それでも彼女は話し続けた




『いつの間にか無くなってて...』




袖で涙を拭いながら彼女は呟く



はぁ...本当面倒くさいな




「一緒に探そうか?」



そんな気は無いが一応言ってみる



あくまでも社交辞令で



すると彼女は間を置いてまた呟いた



『探しても見つからないものだから』




探しても見つからないもの...



何故だか分からないが僕はだんだんと彼女の答えに惹かれていった



バイトの時間のことすら忘れていた



ただ、彼女の口にする言葉が理解出来ないことが嬉しくて夢中になった




「じゃあ質問を変えるけど、一体何を落としたの?」




僕はわくわくしていた



たかが見た目が可愛いだけのどこにでもいるような女



そんな認識でしかなかった彼女は、今僕に期待を持たせている




普通じゃない答えを待っている



そもそも普通の基準って何だ?



いや、そんなのはどうでもいいんだ



僕がおもしろいと思えばそれは普通じゃない




それだけのことだ





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