君がうたう七つの子
 僕は目の前の出来事に固まっていた。

彼女の言葉だけなら嘘だと割り切ることもできたが、僕の肩に残る冷たさがそれをさせてくれない。

そんな僕を見かねたのか、彼女は僕の目の前で手を左右に振りながら

「おーい、見えてますかー」

などと呑気な声で言っている。

こちらの心情などまるで考えていない言動に、どこかあどけなさを感じて僕の緊張が若干和らいだ。

そしてそのまま僕は彼女をじっと観察してみる。

見た目はいたって健康そのもので、向こう側が透けて見えることもないし、幽霊らしさは感じられない。

本当に普通の中学生の女の子に見える。

しかし、さっきの言葉と、起こったことを考えると、普通の女の子ではなく、幽霊の女の子ということになる。

それならばここは穏便に立ち去るべきだ。

相手は幽霊。

へたに恨まれでもしたら、大変なことになるかもしれない。

「そうなんだ。それじゃあ僕は用事があるから。」

物事を早く切り上げたいときに便利な文句を言いながら、背を向けて平然と歩き出す。

よしよし、なかなか平静を装っていたぞ僕。

さすがに何十回と言ってきた台詞だからな。

これでここに近寄らなければ、と静かに心でガッツポーズをとっていると視界の端を何かが駆けて前に影、は無かったが姿が現れた。
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