君がうたう七つの子
「そういえば、この土手に人が来ない本当の理由も知らないでしょう?

普通ここまで誰も来ないのはおかしいでしょう。

噂がね、たっているの。

ここには死んでしまった少女の怨霊がでて、祟り殺すっていう噂がね

流石に私の家族の周囲でそんな話をする人はいなかったから、二人とも知らないだろうけど」

突然の話題の転換に追いつけない僕は、ただ彼女を見つめるばかりで。

そんな僕をあざ笑うかのように彼女は語る。

彼女の一面にしか気づけなかった哀れな僕を、愚かな僕を置いて。

「もちろん私にはそんなこと出来ないよ。

でも夜に私の姿をここで見た人がいて、その人が町でも有名な霊感のある人で、その話はあっという間に広がった。

最初は怨霊とか、祟り殺すなんてものは無かったはずなのに、人に話が渡るたびに尾ひれがついて。

”そうだったら怖いね”っていうのが、”そうだから怖いね”になったんだろうけど。

それも初めは悲しかったけど、人が来ないこの土手でずっと考えてたら、誰も来ないのは”噂”が怖いから。”私”が怖いから。

それなら、そういうことなら皆ここで死んだ私の事覚えてくれているんだ。

ここにいることで少しでも私を忘れない人が、可能性が増えるならって。



それともこれも駄目だっていうの?

私はただ忘れられたくないだけなのに」
どうしてわかってくれないのかな

泣いてるような声を最後に絞り出した彼女は、それでも泣いていない。

泣きたいはずなのに泣かない。

泣いたら負けだとでも思っているのだろうか。

ここには僕しか、レイの味方しかいないというのに。

それとも、それさえわかっていないのだろうか。

頑固にもほどがある。

わからずやにもほどがある。
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