君がうたう七つの子
次の日、約束通り昼過ぎに土手に向かった。

日よけ用のツバの広い帽子を被り、スケッチブックと筆記用具の入ったバッグを肩にさげて。

僕があの日彼女にお願いしたことは、僕の絵の被写体になってもらうこと。

僕は絵を描くことが好きなのだが、人物画はかいたことがない。

なにせ被写体になってくれだなんてお願い出来るだけの友人はいない。

だからと言って、勝手に町中を歩いている人を描くのは、なんだか罪悪感がわいてくる。

写真だと平面で味気ないし。

などとずっと抱えていた問題に頭を悩ませていた矢先に、幽霊の彼女が現れた。

向こうは暇をつぶせるし、僕は適当に相手をしながら絵を描ける。

利害の一致。

まさにこの言葉に限る。

彼女にそれを告げると、思いのほかあっさり快諾してくれた。

「要するに照れ屋なんだね」

という余計な言葉と共に。

なぜその結論に至ったのか問い詰めたいところだったが、日も落ちて帰る時間になってしまったので、昨日はそのまま解散することになった。

 
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