君がうたう七つの子
「―――――いえ、いいわ。

もう十分です。

この絵と、あの歌と、レイの事を語るあなたの表情を見れば。

レイは確かにあなたの前に存在しているのだと信用できます」

驚くことにそう言ったのは母親のほうだった。

泣きはらした顔をしていながらも、先程までとは違い毅然とした態度だった。

何が彼女をこの短時間で変えたかなどと、考える必要もない。

レイが存在して、僕と話して、笑って、歌っていたことに自分の中の巣食っていたものがわずかにとれたのだろう。


しかし僕としては、まず父親のほうを説得してから、彼に母親を説得してもらおうとと思っていたのだが、それはいらぬ世話だったようだ。

彼女は確かに後悔に押しつぶされていたようだけれども、やはりそこは流石と言うべきだろうか。

母親としての強さは失っていなかったようだ。

「しかし―――」

「あなたも見たでしょう、聞いたでしょう、感じたでしょう。

確かにすべてレイのものです。

それにあの歌は、家でしか歌っていなかったわ。

間違いないでしょう?」

「・・・・うん。

うん、そうだな」

母親の強い言葉に、父親はしっかり考えて納得した。

まさかレイのあの歌が家の中でしか歌っていなかったという新事実には、驚いたがそれは顔に出さないようにする。

ここで、少しの疑問でも再びわけば、また信じてもらうことは容易くはない。

いや、もう信じてはもらえない。

せっかくここまできたのだから、小さなミスでおじゃんにするわけにはいかない。
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