君がうたう七つの子
レイはやっと僕のしたいことが分かったようで、先程までの呆然とした表情を消して、こちらを睨むようにしてじっと見つめている。

その姿を見て、初めて出会った時の事を思い出す。

あの時はここまで強く睨まれていなかったけど。

「―――そういうこと。

しょう君、結構強引なところもあるんだね。

知らなかったよ」

僕も知らなかったさ、自分がここまで積極的になるとはね。

そう思いながらも、そのことを口に出すことはない。

僕は言ったことは守る男だからね。

特にその場限りの時は。

「本当になにも喋らないつもりなんだね。

ふふ。

選ぶなんていって、私の存在を信じてくださいだなんて、お父さんたちを騙して」

そうだね。

僕は君の大事な両親を騙したようなものだ。

僕では無く、娘の存在をだなんて言ったら、彼らは信じない訳にはいかない。

普通ならそんなこと信じるに値しない虚言だけれど、精神状態が普通でなく、ずたずたに傷ついている現在の二人にはそれが通じる。

いくら少しは持ち直したと言っても、いくら妻のほうが傷ついているからと気丈にしていても、その中は傷だらけだ。

いうなれば、僕の言葉は蜘蛛の糸。

そして彼らの今の状態は地獄にいるようなもの。

地獄に垂らされた唯一の蜘蛛の糸

これに手を伸ばさない訳がない。

有名な物語でもあるように。

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