君がうたう七つの子
彼女の歌が終わるのを待って、僕はそっと声をかける。

先ほどまで感じていた、遅れてやってきた彼女への苛立ちを忘れて。

「やあ、素敵な歌だったね。

ところでなんで七つの子を歌っていたの?」

彼女は僕の声にゆっくりこちらに振り向いた。

「あれ、やっと見えたの?」

「やっとって、僕はずっとここにいたのだけど」

人の話を聞かないところも昨日の通りだと飽きれながらもこたえる。

この性質は彼女にとってはデフォルトなのだろうか。

だとしたら、面倒なことこの上ない。

「私だってずっとここにいたよ。

君が私を間抜けって言ったのもしっかり聞いていたんだから」

こちらをジロリと睨むように見てくる彼女の視線から逃げるように、目を逸らしながら考える。

いないからこそ言えた言葉を、本人が聞いていたことに気まずさを感じて。

・・・まぁ、気を取り直して、彼女の言葉からここにいたのは間違いない。

でも僕には見えなかった。

今は見えていて、さっきまでは見えなかった。

ということは

「夕方にならないと見えない、とか?」

「成る程。それなら昨日見えて、今日は途中まで見えてなかったことに納得がいくね」

「そうなると、昼にここにきても意味無いね。

僕には君が見えないし、聞こえないんだから」

そう言い放った僕に、彼女は吊り上げていた目尻を今度は下げて、こちらを見てくる。
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