君がうたう七つの子
自分でも十分自己満足だとわかっているし、そんな僕に手折られてしまったススキにも申し訳ないとは思っている。

けれど、ススキが花の中で一番好きだと言いきったおかしな彼女に、彼女のためだけのススキをあげたかった。

たとえ、一本だけでも。せめて、一本だけでも。

僕がゆっくり立ち上がると、風が優しく吹いて、それにあわせて周囲のススキも揺れる。

そして遅れてさわさわと、ススキ同士がたてる心地よい音があたりに広がりだす。

彼女が風の音だと言っていた音。

一緒に聞くことはできなかった音。

その光景が、そのススキの姿が、音が、僕の記憶の波を揺り動かせて、思い出させる。


< 4 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop