君がうたう七つの子
その日の昼過ぎ。

いつも通りの格好と荷物を持って土手を降りていき、いつも通りにスケッチブックを広げて絵を描き始めた。

ここの風景画を描き始めてそれなりに経ったけど、この風景に飽きることはなかった。

レイの所に供えられている花が変わるくらいで、劇的な変化というのは無いけれど、穏やかなその風景は日々ほんの少しずつ姿を変える。

昨日蕾だった花が咲いたとか、綺麗な花が枯れたとか、鳥が水を飲みにやってきたとか、川に木の枝が浮いてるなあとか。

本当に少しだけど、でもそんなことにも気づけることがなんだか嬉しい。

今日はどんな変化があるだろうかと思いながら、目の前の景色を見つめ絵を描きつづける。

それから、真上にあったはずの太陽が真横に場所を移した頃、僕は今までで一番の変化に出会う。

子供がやってきたのだ。

土手の上から嬉しそうな声をあげながら走ってくる。

その後ろからは酷く慌てた女性、子供の母親であるだろう人が追いかけている。

僕の今まで描いてきた風景画に人はいなかった。幽霊はたまにいたけれど。

理由は明確で、ここに来る人がいなかったからだ。

勝手に他人を描けないから描いていないのではない。

誰一人としてここを訪れる人がいなかった。

幽霊であるレイと、僕以外。

それなのに今、目の前に人がいる。

普通ならここまで驚くことはないのだが、いかんせん今まで見たことのなかったものが目の前にいるのだ。

この反応は当然だと思う。
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