君がうたう七つの子
彼女は少しの時間を置いて口を開いた。

「そっか、もうそんな時期かぁ。

懐かしいな。

私、お祭り好きだけど一緒に行っても楽しくないと思うよ。

屋台の食べ物は食べれないし、一緒に金魚すくいできないし。

せっかく誘ってくれたのにごめんね」

困っている様子の彼女に一瞬怯むが、話しながら思いついたアイデアを実行するためにも僕は諦めなかった。

「それなら、花火を一緒に見よう」

「でも」

「僕、花火と人の絵って描いたことないんだよ。

だから、この機会に書いてみようと思って」

人物画を描いたこともない僕が、花火と一緒に誰かを描くなんてしたことがない。

それは彼女にも真実だと伝わったようで、どうしようかと言葉を探しているようだ。

その姿に僕はあと一押しだと言わんばかりに話し続ける。

「それに、これは取引の範囲内だとおもうよ。

最初に約束したよね。僕はレイに毎日会いにくる。

レイは僕の絵の被写体になるって」

自分でもこれは卑怯だとわかる。

それでも僕は躊躇いなく言った。

こうでもしないと彼女は首を縦に振らないと感じたからだ。

彼女の目をじっと見つめて返事を待っていると、暫くしてようやく彼女はいいよと言った。

ありがとうねという言葉と共に。

「何のことだかわかんないや。

でも、レイからの珍しい言葉だからね。

ありがたく受け取るよ」

「はは。

――――うむ、滅多にない言葉である。

大事にするように」

「・・・・どうやって大事にすればいいのさ」

「うーん。心の奥底にでも仕舞っておきたまえ」

「奥底でいいんだ」

「あっ、違う。

心の表面?これも違うな・・・

と、とにかく、大切にしたまえ」

僕がおどけたようにいうと、彼女は物語の王様を演じるように大袈裟な素振りで返した。

< 81 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop