君がうたう七つの子
他の人は僕が目指す方向とは逆へと歩いていく。

きっとそっちが祭りの会場で、いろいろな屋台が建ち並んでいるはずだ。

人の波に逆らうように歩くと、すぐにその波から外れ、一気に喧騒が遠くなる。

僕はいつもの癖で下に降りようとするが、思い直して土手の上を歩く。

危ない危ない。

危うく彼女からの言いつけを破るところだった。

初っ端からこんな調子では先が思いやられるが、彼女と合流すれば問題ないだろう。

そう思いながら歩みを進めるも、彼女の姿は見当たらない。

もう暗くはなっているから、姿は見えるはずだし、光を放っているだろうから遠くからでも見つけられると思うのだが。

とりあえず、いつもの木がある場所のあたりの土手の上に座り込む。

花火にはまだ時間があるから問題はないが、もう先にいるだろうと踏んでいたから、若干面食らった感じだ。

久しぶりに夜空をぼんやりと眺めながら、花火に間に合うかなと心配になりはじめていると、彼女はやってきた。

「おーーーい!」

と手を大きく振りながら、僕がいつも土手に来る逆の方向から走ってきた。

無駄に元気そうな様子はいつも通りだが、彼女が土手以外の場所から現れたことに違和感を覚えた。

地縛霊だとは一言も言っていなかったし、そうも思っていなかったし、別れるときは普通に道を歩いていたけど、会う時はいつも土手にいたからなんだか変な感じだ。

「ごめん、待った?」

少し息を弾ませている彼女に幽霊らしさは無いものの、変わらず、けれど普段より暗いせいか比較的強い光をまとっている姿に、確かに彼女は幽霊だと思い直す。

思いとどまる。

彼女はここにいて、ここにいない存在なのだと。



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