君がうたう七つの子
最後の花火が盛大に散り、あたりには本来の静寂と暗闇が戻ってくる。

そして、僕の視界もまた本来の世界に戻った。

今年は例年より多いと聞いていたが、それは嘘なんじゃないかと疑うほどの早さで終わってしまった。

でも、これは僕の体感での感想なので、実際にはそれなりには長かったのだろうが。

ずっとあのままであの世界にいたかったのに、こうも儚く散って消えてくとは。

現実とはかくもむなしいものか。

「やっぱり今年は違ったね!

いつもより長かったし、すごかった!」

僕とは逆に、彼女はまだ余韻が残っているらしく声は大きいままだ。

さっきは花火の音があったのでちょうどいい大きさだったが、終わった後では花火の音で多少は麻痺している耳にも煩い。

「そういわれても、僕は花火じたいが久々だからね。

評価できるほどのものは持っていないんだ。

あと、うるさいから、もう少し静かに――」

「え!?久々って、なんで!

毎年どこでも花火ってやってるでしょ」

僕としては後半のほうに主題を置いたつもりだったが、彼女にはそうは聞こえなかったらしい。

声のボリュームはそのままに、割り込んで突っ込んでくる。

彼女の疑問に答える前にもう一度煩いと言うと、今度は異様に小さい声で謝ってくる。

彼女の中には音量設定が大と小しかないんだろうか。

だとしたら、随分大雑把なものだが。

「花火とかにあまり興味を持てなくてね。

というか、花火どころか祭りや、初詣とかもあまり興味ないから」

彼女へのお手本にと、ちょうどよい大きさの声で話す。

「変なの。私なんて季節ごとの行事をそりゃあ楽しみにしてたよ。

カレンダーに赤丸つけたりしてね。

そんなんで季節感じられているの?」

彼女の音量設定も相手に合わせる機能はあるのか、今度は耳が痛くなることも、聞き耳をたてることもせずに済んだ。
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