cherry blossom

season






すっと息を吸って、肺のすみずみまで


空気を行き届かせて、それから吐き出す。







「...とりあえず、これで1人っきりだよね...」



深呼吸を繰り返すうちに穏やかな気分になった。


やっぱ、1人は楽だな。


気を使わないでいいし、のんびりできる。


...でも、


1人でいるのと


独りぼっちなのは



...違う。





中庭のド真ん中にある、1本の桜の大木が、涼しげに枝を揺らした。


淡いピンクの花びらがはらはらと舞う。


びゅうっと、突然風が吹いた時、


空が桜色に染まった。




「...桜...」


桜、というと、どうしてもあの時を思い出す。



思い出せばキラキラと輝く、


けれども輝きの後ろには先の見通せない闇が潜んでる。



美しくて、切なくて、懐かしくて、



辛くて、激しくて、心がズキズキと痛む。










私はもう、如月咲だから、




思い出しても、もうただの辛い過去の......











____...まだ、私がseasonだった時のことを。






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