ミラージュ
……………
「どこ行くん?」
「駄菓子屋。腹へったんちゃ」
「買い食い先生に怒られるよ?」
「かっ!ナツからんな優等生っぽいセリフが出てくるなんてな」
「うっさいなー。良平よりは優等生っちゃ」
「どの口が言うか」
いつもの憎まれ口。斜め後ろを歩くこの距離も、一ミリも縮まらない。
少し歩いた所にある駄菓子屋に、良平は躊躇うことなく入って行った。
「なに買うかな~」
我が物顔で物色を始める良平の後ろから、あたしもその小さな駄菓子屋に足を踏み入れる。
校則なんかあってないようなもので、特に運動部の生徒達は部活帰りにこの店によく来ていた。あたしもたまに、美帆達と来る。
良平と来たのは初めてだった。
ふいにレジに視線をやる。誰も座っていないそこには、袋に入ったいくつもの紐が延びていた。
「やるん?くじあめ」
いつの間に後ろにいたのか、あたしの視線を辿りながら良平が言った。