ミラージュ
……………
川沿いの土手を歩く。苦手なメロン味の飴を引いてしまったあたしと、良平は自分のイチゴ味の飴と変えてくれた。紐の先についた飴を口に含みながら、二人並んで歩く。一定の距離は、保ちながら。
「あっちぃな」
制服の中に風を取り入れながら、良平が呟いた。
「ほんと。もう夕方なのに、まだもやもやが見えるもん」
「もやもや?」
「もやもや。ほら、前の方にあるじゃろ」
あたし達が喋る度に辺りに甘い香りが漂った。あたしが指差す方を見ながら、良平ははっと吹き出す。
「お前、もやもやはないじゃろ」
「何よ、もやもやしちょるけぇ"もやもや"で何が悪いそ?」
「ありゃちゃんと、歴とした『陽炎』って名前がついちょる」
「『かげろう』?」
「お前ほんとに知らんそ?」と言いながら、良平は土手に入り腰を下ろした。あたしも少し間をあけて座る。
「日射しであつくなった空気で光が不規則に屈折して、ああいう現象がおこるんよ。俺もよく知らんけど、ほら、砂漠とかでもおこるじゃろ」
「砂漠なんか行ったことないもん」
「なくてもイメージくらいあるじゃろ。ターバン巻いた人がらくだに乗って、その周りをお前が言う"もやもや"が包んじょる。あれが陽炎」