ミラージュ
そのイメージもどうかと思ったが、あたしは「ふーん」と軽く返事をした。飴で少し口が切れた。
熱くなった空気と不規則に屈折する光。なんとなくわかる気がする。
「なんか…陽炎って、恋愛みたいじゃね」
小さなあたしの呟きに良平が顔を向けた。
「みんなそれぞれ誰かを想ってて、でもその温度は違っちょって。じゃからかな、見えるものも違ってくる。自分にはとっても大切な時間とか瞬間でも、相手はそうじゃなかったり、その逆じゃったり」
それぞれの温度とそれぞれの光。自分の放つ屈折した光で、ほんとうのものが見えなくなる。
陽炎の奥に浮かぶ蜃気楼に、閉じ込められたかの様に。
「…ナツでもそんなこと思うんじゃね」
「だからどういう意味さ」
「べっつにー。ナツから恋愛談義聞けるとは思わんかったっ」
よっと立ち上がり、「でもわかる」と良平は言った。
あたしも立ち上がり、良平の後ろからついていく。
「…良平だって恋しちょるくせに」
「はぁ?」
「さっきのくじあめだってさ。本当は紗耶香ちゃんとやりたかったんじゃろ」
沈黙。良平の背中を見つめる。
「…紗耶香ちゃんとやったら絡まったかもね、紐」
「…うるせー。嫌味か」
「さぁ?」