ミラージュ
あははっと笑いながらも、どこか寂しさは拭えない。絡まらなかったあたしと良平の紐。するりと取れた飴がなんだか虚しかった。
「ナツにはわからんっちゃ」
「何が?」
「言わせんな」
顔は見えないけど、良平の言わんとすることはわかる気がした。多分少し照れてることも。
「…わかるよ」
「え?」
「恋する気持ちくらい、わかる」
良平の足が止まった。振り返る。あたしは足を止めずに、俯いたまま良平を追い越した。
「あたしだって女の子じゃもん。恋することくらいあるもん」
それがあなただなんて、そんなこと到底言えないけれど。
しばらくして良平の足音がまた後ろから響いてきて、「ふーん」と小さく呟いた声も届いた。
いつの間にか、もやもやは消えていた。
「じゃあ、うちこっちじゃけ」
あたしは振り向いて言う。気付いたらずいぶん歩いていたみたいだ。
「おう。明日朝練遅れんなや」
「良平こそ。得意の寝坊せんことねっ」
「よけーなお世話じゃっ」