ミラージュ
予定外に時間が空いてしまい、あたしは日陰に行って階段に腰かける。目の前を何人もの人達が足早に通りすぎる。
今日は日曜日なのに、何故かみんな忙しそうで。
休みの日くらいのんびりできないのだろうか。これが日本人の習性なのかな。
ぼんやりと前を見る。陽炎の中を歩く人達。
ジリジリとした暑さにうっすらと汗を浮かべながら、そういえば今は夏かと改めて実感した。
夏。今年もまたやってきた。
『おつかれさん』
この日射しと汗と陽炎が、あたしの記憶を呼び覚ます。
今より随分日に焼けていて、今より随分頭が悪くて、陽炎を『もやもや』と表現していた、あのちょっとだけ切ない日々を。
「…暑いな」
空を見た。あの頃と同じ太陽がそこにはあった。