ミラージュ
……………
「あつーいっ」
「水、水、水!!」
「早く着替えぇや!今日こそ帰りにミスド寄るんじゃけぇねっ」
練習後の部室は、いつもに増して湿度が高い。女を捨てた格好で下敷きを使い扇いでいる智と梨香子を、美帆が率先して叩き上げていた。最近近く(と言っても、電車で4駅先なんだけど)にできたミスドに、美帆はどうしても行きたいらしい。
「つか、練習後に甘いもんなんか食べたくないっちゃ」
「ほんま!暑くてやれんのに」
「ぐだぐだうっさい!ほら、ちゃっちゃと準備しぃ!!」
そんな三人のやりとりを見ながら、あたしは1人着々と着替えをすませていく。時計を見る。あと少し。
「ナツも行くじゃろ?」
「ごめん、多分行かん」
「えーっ何で!?ずるいっ!」
思わず本音で叫ぶ智に、美帆は「ずるいって何かっちゃ!」と強烈な突っ込みを入れた。
「用事あるんよ。バスで帰るし」
「電車じゃないそ?」
「うん、今日はバス」
セーラー服のリボンを結ぶ。昨日買ったばかりのレモンライムの8×4をシュッと背中にかけた。冷たくて気持ちいい。