ミラージュ
……………
「あ~あ…」
バス停の前で溜め息をつく。二分前にバスは出てて、次のバスは一時間後。電車で帰るにしても同じくらい待たなきゃいけないだろうし、ましてや駅まで行くのにも時間がかかる。
あたしは諦めてバス停のベンチに腰かけた。屋根もなにもないバス停。陽射しが容赦なくあたしを刺す。
「…あっつ」
手の甲をおでこに当てて、真夏の空を仰ぎ見た。
7月。梅雨明けの季節は息苦しい。
もやもやが辺りに満ちている中で、あたしはぼんやりと紗耶香ちゃんを思い出した。
色白の肌。ふわふわの髪。夏がよく似合う爽やかな笑顔。
憧れそのものだった。そして彼もまた、そんな彼女を見ていた。
…紗耶香ちゃんが羨ましいんじゃないんだ。紗耶香ちゃんだから羨ましいんだ。彼の視線の先にいる、紗耶香ちゃんだから。
紗耶香ちゃんと仲良くなったのは、それに気付いてからだった。彼がいつも見ている女の子。あたしは素直に嫉妬した。
1日に何回紗耶香ちゃんを見るんだろう。
きっと紗耶香ちゃんが髪型を変えたりしたら、すぐに気付くんだろうな。
あたしが思いっきり髪を切っても、きっと放課後まで気付かないのに。