ミラージュ

羨ましかった。彼に好かれる紗耶香ちゃんも、彼の視線の先にいる紗耶香ちゃんも、全部が羨ましかった。

だからあたしは紗耶香ちゃんに話しかけた。不純な友情の始まり。紗耶香ちゃんはそんなこと何にも知らない。

わかってたの。紗耶香ちゃんと一緒にいれば、彼の視線の中に入れるって。

あたしの視線の先には彼。彼の視線の先には紗耶香ちゃん。この一方通行の中に、あたしは割り込んだ。

紗耶香ちゃんを見つめる瞳の中に、あたしも入りたかった。
1日に一度でいいから、あの視線が欲しかった。紗耶香ちゃんを見つめる目で、あたしを…。

「…ばっかみたい」

オレンジ色の空があたしを笑う。わかってる。そんなことに意味なんてあるわけないって。だってあたしと紗耶香ちゃんは全然違う。全然違う。


「おつかれさん」


ふいに視界が陰った。屋根のないバス停に影ができる。

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