ミラージュ
見上げた空に、彼の顔が見えた。同時に頬にアクエリアスのペットボトル。突然すぎて、息をするのも忘れた。
ベンチに座っているあたしの上から覗き込んだ彼は、そのままベンチを跨ぎ時刻表に向かう。
「げっ、次のバス一時間後じゃーや」
彼があたしの隣に置いたアクエリアスを手にとると同時に、彼の声も届く。
「お前このあちぃ中一時間もバス待つつもりなん?」
「…だって、電車も同じだし…」
「俺無理、耐えらんない」
あっちぃ、と空を仰いだ後、スポーツバッグの中からアクエリアスを取り出した。一体何本持ってるのか。
「よしっ、帰るか」
「え?」
「お前もこんなあちぃ中ぼーっと座っちょったら、日射病になるわ。そのアクエリアスやるから、つきあえ」
もやもやの中を歩き出す彼。温くなったアクエリアスを握りしめ、あたしも駆け足でその後ろ姿を追った。
心臓がドキドキする。ただでさえ、暑いのに。