ミラージュ

見上げた空に、彼の顔が見えた。同時に頬にアクエリアスのペットボトル。突然すぎて、息をするのも忘れた。

ベンチに座っているあたしの上から覗き込んだ彼は、そのままベンチを跨ぎ時刻表に向かう。

「げっ、次のバス一時間後じゃーや」

彼があたしの隣に置いたアクエリアスを手にとると同時に、彼の声も届く。

「お前このあちぃ中一時間もバス待つつもりなん?」
「…だって、電車も同じだし…」
「俺無理、耐えらんない」

あっちぃ、と空を仰いだ後、スポーツバッグの中からアクエリアスを取り出した。一体何本持ってるのか。

「よしっ、帰るか」
「え?」
「お前もこんなあちぃ中ぼーっと座っちょったら、日射病になるわ。そのアクエリアスやるから、つきあえ」

もやもやの中を歩き出す彼。温くなったアクエリアスを握りしめ、あたしも駆け足でその後ろ姿を追った。

心臓がドキドキする。ただでさえ、暑いのに。












< 9 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop