彩華
 長雨の続く蒸し暑い宵の口。
 まだ夜は始まったばかりではあるものの、ここ牡丹楼ではすでに客が入っていた。

「紫苑。ほら、いつまでそんな格好でごろごろしてるのさ」

「いいじゃないか。あちきらだって似たようなもんだ」

 牡丹楼は、この遊郭で最も大きな廓だ。
 その二階の奥の部屋に、ここ数日居続けの客がいる。

 女子のように細い身体に、中性的な顔。
 背もそう高くない。
 紫苑と名乗るこの男は、牡丹楼では有名だ。

「もうちょっとお飲みよ」

 一人の遊女が酒を勧めれば、もう一人の遊女が乱れた着物のまま三味線を弾く。
 紫苑は遊女から杯を受けると、少しだけ頭を起こして気だるげに飲み干した。
 口の端から流れた酒を、遊女が舐める。

「全く、自堕落な生活だねぇ。若いくせに、そんなんだから放っておけないんだよ」

 大きく乱れた着物を直すこともせず、膝枕で寝転んでいる紫苑を、遊女は愛おしそうに撫でる。

「だから、ここに来るのはやめられない」

 そう言って、紫苑は膝枕のまま遊女に抱きつく。

「鬱陶しい雨も、ここにいたら極楽だね」

 淫靡な灯りの中に、遊女の笑い声と三味線の音が響いた。
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